種なしスイカ 作り方と原理

三倍体の種なしスイカの作出に初めて成功したのは寺田甚七と益田健三である

種なしスイカは日本の技術として生まれた~

「右の文章注)を書いてから二十七年もたった。その間に無種子西瓜は多少、市場に出回ったが、近年は市場で見かけることが少なくなった。ところが、台湾では特産物となってたくさんつくられている(1973年3月)。・・・三倍性西瓜は日本では現在ほとんど作られていない。米国と台湾ではよく研究され、相当にその栽培が伸びているようである。農産物で日本でつくりだされたものは、日本では発展しないのが相場のようである(1979年8月)(略)」(木原 均『小麦の合成』)1a)          

注)『小麦の祖先』(創元社.1947年)の西瓜についての記述

・・・ウーム。なるほど。農産物もそうか。すでに80年になるのだが。。。

(最後のフレーズは、コムギの『農林10号』を思い浮かべてのことだと勝手に推測する)

種なしスイカに興味をもち、調べていると間違った情報を目にする。もともとは日本で技術開発がすすめられて、世界にも広がった。恐れ多いが皆様のリテラシーを高めるために、知識として知ってほしいと思い執筆を進めた。できる限り分かりやすく記した。

① 3倍体の種なしスイカ開発者は、寺田甚七

② 4倍体の雌花に2倍体の花粉をかけて3倍体の種子を得る

③ 3倍体の雌花に2倍体の花粉をつけて果実をならせる。

④ 3倍体は減数分裂のときに、余分なゲノムの染色体1組がまとまる率が低いので胚嚢ができない。

種なしスイカの歴史・作り方

記録を見る限り、寺田(てらだ)甚七(じんしち)が種なしスイカ開発の先駆者である。もちろん、益田健三 氏、木原均 博士らの協力もあった。この経緯については、中島武彦 氏の『種なしスイカのルーツ』2, 3, 4, 5)をご参照いただきたい。

種なしスイカを作るのに、種はどうするのか?昔、高校の教科書でみたような記憶もあるが、資料をみながら記したい。種なしスイカにするにはいくつかの方法がある。植物ホルモン(植物生育調節剤:商品としては植物成長調節剤と書かれている)処理、三倍体(倍数性)の利用、軟Ⅹ線照射花粉(不活化花粉)の利用、ユウガオ花粉(異属花粉)の利用などである。

1.植物ホルモン処理(ホルモン様活性のある合成物質を含む)

最初に種なしスイカを作出するのに使われた方法である。1938年に寺田甚七・益田健三の両氏によってホルモン処理による種なしスイカが作出された6)。この時に使用されたホルモン剤はIAA(インドール酢酸:Indole-3-acetic acid(0.1%-0.2%程度)) 6, 7)である。IAAを柱頭に散布、あるいは塗布する。時同じくして、1938年にWong, Cheong-YinがNAA(ナフタレン酢酸)で作出している8)。Wongの試験ではIBA(インドール酪酸:Idole-3-butylic acid)では肥大していない。これらの植物ホルモン剤は、いずれもオーキシン類である。ホームセンターで売られているトマトトーン(4-CPA:4-クロロフェノキシ酢酸)も肥大の効果はあるが、スイカヘの適用にはなっていないので使用できない。

また、サイトカイニン類として、BA(ベンジルアミノプリン:Benzylaminopurine)やCPPU(ホルクロルフェニュロン:Forchlorfenuron:商品名フルメット)もスイカの子房を肥大させる効果があり、種なしスイカができる9), 10)。しかし、市販の剤はいずれもスイカの着果促進としての適用であり、種なしにするためではない。もちろん、ホルモン剤を利用して種なし果にするには、柱頭へのスイカ花粉の受粉を防止する必要がある。

 種なしブドウを作るときに用いられているジベレリン(GA3)を単独で用いて種なしスイカができたという報告はみられない。余談ながら、種なしのブドウを作るには開花の前後にカップにジベレリンを入れて2回処理(1回目は無核化、2回目は肥大促進)11a)するが、大変な作業である。自動単為結果によってシャインマスカットのような品種ができるとよいのだが。ちなみに、モモやサクランボは果実の構造が違うのでいわゆる種なし果にならない。種子は堅い殻の中にあり、種子自体は種なし(しいな化)はできるが、堅い殻の部分は種子ではなく果実の内果皮と呼ばれる部分が硬くなったものである12a, 13a), WEB参照)

2.三倍体を利用した種なしスイカ・・・奇数のゲノム(染色体の不稔性)

2-1)三倍体の種なしスイカの報告

 種なしスイカは世界的に利用されている3倍体の技術による。これは日本が世界に先駆けて開発した技術である。コムギのゲノム研究で有名な木原 均博士の発案とされるが、実際に開発に成功した人物は異なる。調べ得る限りにおいて、スイカ植物の染色体の倍加技術によって種なしスイカの作出に成功したのは寺田甚七益田健三である14, 15)*。3倍体種なしスイカ作出は1942年である(報告は1943年:三倍体種子を得たのは1941年)。スイカにコルヒチンを処理して4倍体のスイカを作り2倍体の花粉を4倍体の雌花に受粉したところ胚のある黒い種子が入っている果実ができた。この種が3倍体の種子である(1941年)14)この3倍体の種子を翌年(1942年)に播種して、種なしスイカを得ている15)。これが世界初の三倍体の種なしスイカである。

一方、4倍体の花粉を2倍体のスイカに受粉した場合、胚のない白い皮だけの種子(しいな)だけの、種なしのスイカができる(1941年)14)。・・・つまり、中身のある種子は得られなかった。では、この方法、4倍体の花粉を2倍体の雌花に受粉して種なしスイカができるのでは?しかし、白い種子(しいな)は正常の種子よりも大きく、ホルモン処理よりの果実には劣っていたことから、4倍体の花粉を普通のスイカ(2倍体)に受粉して種なし果実を得る方法は、実用性はないと判断している。

*3倍体種なしスイカの開発は木原 均先生を中心として、研究室員、寺田、益田らのチームワークの成果であることは言うまでもない。木原は『西瓜がそのまま放置されても無種子となるようにできぬものかと思い、私は昭和十四年(1939)台湾へ旅行中、嘉義の農業試験場支所で山下孝介学士の助力を得て研究に着手し、寺田、益田両学士、西山市三博士、近藤典生学士、阿久津昴氏などその他多勢の協力を得てその作出に成功した(一部略)』1b)と述べている。

寺田・益田の報告書の謝辞には「本實験(じっけん)は京都帝大木原教授並西山助教授の御援助に負ふ(ところ)多大である」15)と記している。

注)Wongの報告(1938年)に、スイカの種子にコルヒチン処理をして栽培した植物の葉や花は大きくなり、その花粉で同じ植物体の10個の雌花に受粉(自殖)しているが結実しなかった8)、とある。これ(コルヒチン処理の植物体)は、4倍体が作出された可能性があり、初の倍数体スイカ作出の例と推測される(もしそうだとすると、ひとつも結実しなかったのは条件に恵まれなかったためか?)。

さて、3倍体が種なしになる原理について述べる。その前に基本的な事項について記す。

2-2)なぜ種なしスイカになるのか16)

①被子植物の受精

一般的に体細胞は雌と雄からの2組の染色体をもつので「2n」で表し、生殖細胞(卵細胞、精細胞)は体細胞の半分の染色体1組しかもたないので「n」で表す。nとNはどちらでもよい(nが一般的17a)であるが、NはCambellの『Biology』18)で使用)nは染色体数も表す。スイカ植物の体細胞の染色体は22本で2n=22と書く。生殖細胞の染色体は体細胞の半分なので11本でn=11と書く。胚乳細胞は重複受精により、中央細胞の極核の2nと精核のnとが融合して3nとなる。3n=33と書く。nは生殖細胞のもつ染色体の数を1単位として考えるのである。通常、nは半数体、2nは2倍体といい、3倍体を3n、4倍体を4nと書く。これが世界の生物学で一般的に使用される染色体と倍数体を表す記号である。しかしながら、倍数性(polyploidy)を考えるときに、nを用いて倍数体(polyploid)を表すのは不適当であるため x が用いられるバナナは3倍体で2n=3x、パンコムギは6倍体で2n=6x、イチゴは8倍体で2n=8xである。繰り返すが、この倍数性(体)を3n、6n、8nとする書物もあるが17a), 19a)適当ではない注1)

注1) 古くは(1952)、西山も二倍體(2n)、四倍體(4n)、三倍體(3n)など、倍加した植物にnを用いている21)。但し、xも使用している。

「n」と「x」の違いについて。

ゲノムとは、木原 均の定義した『それぞれの生物の生活機能の調和をたもつ上に欠くことのできない染色体の1組』20a)である注2)。「ゲノムに無関係に染色体数を示す場合には、二倍数と半数をそれぞれ2nとnとで示し、一倍体および二倍体を表すときは基本数*(bまたはx)を用いてbと2b、あるいはxと2xとで示す」20b) 。このようになった背景については、「倍数性が発見されてからは半数体でも染色体数が基本数の倍数性のものもあることがわかり、基本数の何倍の染色体数をもつかに応じて一倍体・二倍体・三倍体とよぶこととなったので、半数体の語は二通りに使われるようになった」20b)とある。つまり、同じ種属でも配偶子の染色体数が同一ではなく、倍になっているものもあることが分かったことから、倍数性を示すのに x を用いるようになったのである。加えると、ゲノム構成を考えるときに必要となるためである。

注2)Winklerは配偶子のもつ遺伝子またはDNAの全体をゲノムと名づけた(1920)22)。現在はこちらの定義を用いることが多い。Genome; The total genetic information carried by a single set of chromosomes* (i.e. in a *haploid nucleus)17b)、All the genes contained in a single set of chromosomes, i.e. in a haploid nucleus19b)

*基本数:生殖細胞の染色体数=n.「半数(核相の交代において染色体数が半減している相**)の染色体構成が、形態的あるいは生理的にみてそれ以上の群に分けられないとき、この数を基本数という」20c)。**単相:配偶体:胚嚢、花粉

以下の説明では、ゲノムの概念が必要な倍数性(体)を示す説明には基本数である x を用いる

②スイカ(Citrullus lanatus (Thunb.) Matsum. & Nakai)の染色体

体細胞の染色体は22本(2n)である。生殖細胞の染色体は11本(n=11)である。1ゲノムの染色体は11本(x=11)で、普通に栽培されているスイカは2倍体(2n=22=2x)である。雌由来の染色体の組(x)と雄由来の染色体の組(x)がある。雌花の子房の中に種子となる胚珠がある。その胚珠の中に卵細胞がある。この卵細胞は減数分裂によって体細胞の半分の染色体をもつ。つまり、スイカでは11本(n)である。同様に雄花の葯にある花粉も減数分裂により11本(n)となる。雌花の柱頭に花粉を受粉すると卵細胞(n:卵核)は花粉管から放出される精細胞(n:精核)と受精して染色体は22本(2n)となる。その後、卵細胞は分裂して胚を形成し、種子となる。一方、胚珠の中央細胞の極核(2n)も精核(n)との受精により胚乳核(3n注3)を形成して分裂していくが、胚乳は途中で消失する。スイカは無胚乳種子である。

注3)胚乳核の3nは倍数性とは関係ない。

③4倍体植物の作り方14), 23a), 24)(図1A、図1B参照)

子葉の展開しはじめに、子葉の間(生長点)に0.05~0.4%のコルヒチン液を滴下する(脱脂綿を置いてコルヒチンを滴下してもよい)。1日1回、3~4日行う。乾燥しないように日陰においてポットをビニル袋などで覆う。その後徐々に日に当てて育苗する。本葉が変形した苗を選ぶ(染色体の倍加についてはいろいろな分析法がある)。コルヒチン処理によりでてきた茎葉は、染色体(2n=22=2x)が倍加された4倍体(2n=44=4x)となり、その雌花の卵細胞は2x(卵核)、花粉の精細胞は2x(精核)である。

*ここでは言及しないが、種子を浸漬したり、別の薬品で処理したりすることもある。

④3倍体の種子の作り方15), 16), 23a), 24)(図1A参照)

4倍体の雌花に2倍体の花粉を受粉することで3倍体の種子ができる(図1A)。4倍体植物(4x)の雌花の卵細胞は2xとなるので、これに2倍体植物の花粉(精細胞:x)を受粉すると受精により2x+x=3xの卵細胞となり、分裂して胚を形成して3倍体の種子(3x)となる。しかし、逆の受粉では種子ができない。つまり、2倍体の雌花(x)に、4倍体の花粉(2x)を受粉すると受精により3xの卵細胞となって胚を形成するはずであるが、胚は発達しない(注:植物種によっては種子ができる)。種なしスイカを栽培するときに用いる種子は、4倍体のスイカの雌花に2倍体の花粉を受粉してできた3倍体の種子を使うのである。

⑤補足(3倍体品種の作出)

図1Aに示したように、2倍体植物の染色体を倍加させてそこから出てきた4倍体の雌花を得る。その雌花に2倍体植物の花粉を受粉することで直接3倍体種子が得られる(図1 A)。しかし、品種開発には4倍体の雌花(2x)に4倍体の花粉(2x)をかけて、4倍体(2x+2x=4x)の種子を得る23a), 24)(図1B)。その4倍体(母親系統)からの雌花に2倍体(父親系統)の花粉をかけて3倍体の品種を作る23a), 24)

3倍体のスイカはなぜ種子ができにくいのか?16), 23b), 25a)

・・染色体的不稔性の利用―《奇数ゲノムの倍数体》25a)

~ 減数分裂が問題となる ~ まず、体細胞分裂からみてみよう。

体細胞分裂(図2):二倍体の染色体は22本である。11本で1ゲノムを構成し、2組のゲノムをもつ。1組は雄由来(精細胞:染色体11本)であり、1組は雌由来(卵細胞:染色体11本)である。三倍体の染色体は33本である。3組のゲノムをもつ。1組は2倍体の雄由来(精細胞:染色体11本)であり、2組は4倍体の雌由来(卵細胞:染色体22本)である。三倍体も二倍体と同じように分裂する。図2に示すように、一つの体細胞にある染色体は、それぞれ複製により倍加して2本の染色分体(染色体1本から2本の染色分体となる)となり、2つに分かれて両極に行く。染色体が二つの群に分かれたのち細胞は分裂する。・・・つまり、体細胞分裂では、それぞれの染色体が倍加してそれぞれの極に移動して分裂するだけである。

 図2 体細胞分裂 上:2倍体の体細胞分裂、下:3倍体の体細胞分裂

減数分裂(図3):生物の生存に必要な最小の染色体のセット=ゲノムを考える必要がある 。ゲノムの1組がないと分裂できない

二倍体:第一分裂において、各染色体が倍加後に雌と雄からの相同な染色体(相同染色体)が対合して、11個の二価染色体となる。染色体は倍加して2本の染色分体(二分染色体:動原体の部分でつながっている)となっていて、二価染色体は4本の染色分体で構成されている。相同染色体が離れ、二価染色体はランダムに両極に分かれる。続く第二分裂により、染色分体は離れて、四分細胞を構成する細胞に配分される。

三倍体23b), 24), 25a) :第Ⅰ分裂から第Ⅱ分裂への障壁(図3、図4)

繰り返しになるが、染色体1組11本で1ゲノムを構成し、3組のゲノムをもつ(同質3倍体)。

第一分裂において、33本の染色体は同じものどうし(相同染色体)が3本でまとまり、3価染色体が11個できる。その1揃いの染色体3本(雄由来1本、雌由来2本)は、分裂するときに2本は別々の極(上極・下極とする)に行き、残りの1本は1/2の確率でどちらかの極に行く。同様に他の染色体も1/2の確率で移動する。この余分な11本の染色体が上極に11本全部移動すれば下極は0本であり、上極が0本であれば下極は11本となる。染色体の11本がそれぞれ上極と下極のどちらかに分かれている状態は、1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2=(1/2)11=1/2048通りある。また、この余分な染色体の本数が上極と下極に11:0、10:1、9:2、8:3、7:4、6:5、5:6、4:7、3:8、2:9、1:10、0:11に分かれる頻度は、二項展開(a+b)11によって1a11+11a10b+55a9b2+165a8b3+330a7b4+462a6b5+462a5b6+330a4b7+165a3b8+55a2b9+11ab10+1b11、すなわち、1、11、55、165、330、462、462、330、165、55、11、1と導かれる。例えば、6本の染色体が上極に行くときの確率は、二項分布(nCkpk(1-p)n-k)からp(6)= (6(11))(1/2)11でも求められる。 (6(11))=11!/6!(11-6)!=11!/6!5!=11×10×9×8×7×6×5×4×3×2×1 /6×5×4×3×2×1×5×4×3×2×1=462、すなわちp(6)=462×(1/2)11=462×1/2048=231/1024である。これを基に以下を述べる。

全部の染色体(33本)を考えると、ゲノムの3組のうち2組は1組(11本)ずつ両極に分かれる。しかし、残りの1組のゲノムはまとまってどちらかの極には移動しない。上述したように、この余分な染色体11本はそれぞれどちらかの極に移動することになる。したがって、上極と下極は22:11、21:12、20:13、19:14、18:15、17:16、16:17、15:18、14:19、13:20、12:21、11:22のいずれかの状態となる。例えば、17本と16本(16本と17本もある)に分かれるのは2048のうち924ある。

細胞が分裂できるのは、ゲノムとしての染色体1組(11本)がまとまったときである。すなわち、3組のゲノムが細胞の上極と下極に1組と2組、あるいは2組と1組に分かれたときに分裂する。これは、1組の完全なゲノムの他に余分な染色体があると生殖細胞の正常な機能が失われるからである23b), 25)。余分な染色体11本の全部、すなわち1組のゲノムがどちらかの極に集まるのは、22:11と11:22に分かれたときであるので、2/2048=1/1024の確率で細胞が分裂し、第二分裂へ向かう。第二分裂は正常に行われる。したがって、この確率で配偶体(胚のう、花粉)が形成される。すなわち、この場合に受精によって種子ができる。

 図3 減数分裂 上:2倍体の減数分裂、下:3倍体の減数分裂

 図4 3倍体の配偶子形成

これで終わりではない!!

2-③栽培の仕方これが重要である3倍体の種子をまいて、栽培しても果実がならないのである。なぜか?3倍体のスイカの花粉の多くは不稔(良花粉10%程度)23b)のためである。言わずものがな、胚嚢と同じく、花粉は減数分裂で形成される(図3参照)。そのため、実際には普通のスイカ(2倍体)も栽培してこの花粉を3倍体のスイカに受粉する必要がある26)(図1C)。種なしスイカを栽培している生産者は、3倍体スイカの隣に2倍体のスイカを栽培してミツバチで受粉しているようだ。趣味で栽培するのであれば、必ず普通のスイカも栽培して、雄花を3倍体の雌花に受粉してあげることをお勧め(必須)する。

3.不活化花粉を利用した種なしスイカ・・実際に利用されている

3-1)杉山慶太 氏と森下昌三 氏によって1997年に発見された方法である。普通のスイカの花粉を軟X線によって不活化する。その花粉を普通のスイカの雌花に受粉することで、種子が形成されずに種なしのスイカとなる27), 28a)。3倍体とは違って、販売されているスイカの品種をそのまま種なしスイカにすることができるのが特徴である。品種は何でもよいが、品種は何でもよいが、しいな(・・・)注)の多さ、大きさ、着色には、品種で異なるので選んだ方がよい。種子の中身が空っぽでも着色しているしいなは、種子と同じなので意味がない。

注)しいな:種子の中身(胚)がなく、種皮のみがある。植物学的に種子ではない26)

3-2)種なしのメカニズム:雄花の花粉管は伸長して珠孔から胚珠の中に入って片方の助細胞入り花粉管から精核が放出され、精核は移動して卵細胞の核と接合して初期の胚形成以後分裂が止まり胚は退化・消失するので、種なしとなる29)。花粉へは600Gyの照射で精核が機能を失うようである28a)。このような受精現象を偽受精といい、果樹ではカキやブドウなどでも受精後に胚が退化する現象が知られている30)

前述した通り、この方法の利点は販売されているどのスイカ品種にも適用できて、種なしスイカを作れることである。しかし、花粉に軟X線(透過性の低いⅩ線)31)を照射する装置が必要で、その処理方法(線量や時間)などの条件もあり、不活化の花粉を作るのは素人には困難である。ただ興味があれば、Webでこの花粉を販売している業者があるので利用できる。

3-3)栽培の仕方:この方法は極めて簡単であるが、栽培には注意が必要である。

スイカを播種して、雌花が開花したときに、この不活化の花粉を受粉するだけである。しかし、普通の花粉が雌花に受粉されると、種子ができる。先に不活化の花粉をつけても種子ができる28a)。そのため、雌花が開花する前には紙袋(小さな果実袋)をかぶせるなど、虫による受粉を防ぐ必要がある。ハウスで栽培するにも防虫ネットなどで昆虫、あるいは風による受粉にも気をつけないといけいない。簡単そうで、雌花の開花を知ることや、虫が入らないようにすることなど、手間はかかるので素人にはハードルが高い。開花前日の午後の(つぼみ)に受粉しても結実するが、受粉後には袋をかける必要がある。ポイントは、昆虫による受粉の防止である。

4.ユウガオ花粉を利用した種なしスイカ・・・イグノーベル賞もの

・・・異属花粉の利用

4-1)杉山慶太 氏が2012年に開発した方法である。ユウガオの花粉をスイカの雌花に受粉すると種なしスイカができる32)。これについて、寺田甚七 氏らが1935年にユウガオの花粉で小果実を1個収穫した33)との報告がある。しかし、1果だけで種子も混じっている、その後の報告もないことから種なしスイカの作出とは記されていない。ちなみにこの試験ではカボチャやトウガンの花粉によってもスイカが得られているが、種子が多く入っていて試験の精度としては不十分であると思われる。今のところ、ユウガオの花粉以外ではスイカの単為結果は報告されていない。

ユウガオ(Lagenaria siceraria var. hispida)と同じ属で変種のヒョウタン(var. gourda)花粉でも単為結果を生じるが、ユウガオよりも低い傾向がみられている34)。スイカはどの品種でもよいが、着果のしやすさには差はあるようだ。また、果実は変形や縦長くなるのが特徴である。糖度は高くなる傾向があるので味には問題がない。

4-2)種なしのメカニズム:ユウガオ(Lagenaria siceraria)とスイカ(Citrullus lanatus)は異なる属である。いわゆる属間による受粉で、通常は受精せず種子ができない。ユウガオの花粉をスイカの雌花に受粉すると、花粉管は伸びるが、子房の上部で伸長が止まり、胚珠には到達しない28b)。したがって、スイカの卵核とユウガオの精核との受精が行われず、胚ができないために種なしの果実なる。これは、ユウガオの花粉管の刺激、あるいは花粉管からの化学物質によって単為結果(刺激的単為結果)30)する現象である。ユウガオの花粉によってのみスイカの子房が肥大するので、肥大を誘導する物質について今後の研究を期待したい。

注)開花前日のスイカの蕾は黄色くやや膨らみがある。晴天が続くときは見分けやすいが、気温の低いときなどは分かりにくい。翌日開花しない雌花に受粉しても着果しない。間違いやすいのは、開花が終わった雌花につけてしまうことである。開花の終わった雌花の花弁(花びら)は萎れているので触ってみると区別がつく。

4-3)栽培の仕方28b), 32), 34):ユウガオの花粉は販売されていないので、ユウガオを栽培する必要がある。ヒョウタンも同じ仲間であるが、結実する割合はユウガオをより低いので避けた方がよい。ユウガオであれば概ねどの品種でもよい。スイカの雌花の開花時期にユウガオの雄花(花粉)がないと困るので、スイカよりも早めに播種しておくのがよい。

ユウガオという名前のとおり普通は夕方に開花するが、気温条件などによっては朝咲くこともある。ユウガオの花粉は保存できないので、夕方に開花または開花直前の蕾の状態のユウガオの雄花を用いるが、スイカの雌花は朝方に開花するので、花弁は閉じている蕾の状態となっている。そこで、スイカは開花前日の午後にの花弁を開いて受粉する。これだと、開花前に袋をかけて虫の受粉を防ぐ必要はない。しかし、受粉後は雌花に袋をかぶせる必要がある。ユウガオの雄花の花柄をつまんで、花弁とがくを取り除いて葯についている花粉を雌花につける。ひとつの雄花で雌花3個ほど受粉できる。なんでもそうであるが、受粉したからといって着果するわけではない。何回も出てくる雌花への受粉を試みる必要がある。受粉してうまくいくと、1週間くらいで子房が膨らんでくる。果実は縦長になりやすく、変形もみられる。また、果実は空洞になりやすい。ポイントは夕方に受粉して雌花を袋で覆う。趣味の園芸として試してみるのも面白い。

注)昨日の夕方に咲いたユウガオの萎れた雄花を、朝開花しているスイカの雌花に受粉しても結実することもある。しかし、この場合は開花前のユウガオの雄花とスイカの雌花に袋をかける必要がある。

注)ユウガオの食中毒:ユウガオ、ヒョウタンにはククルビタシンが含まれていて食中毒をおこすことがあるので、苦みがつよい場合には食べないこと35)

5.染色体の相互転座を利用した少粒スイカ

これはマニアックな方法なので、興味のある方は『細胞遺伝学 Ⅲ』25b)36)をご一読されたし。この方法は種子を少なくする方法としてスイカ品種の作成に使用されている。これもまた日本が誇りうる画期的な方法である

6.種なしスイカの基準について・・・種はあっても種なしか

生物である以上、例外も多い。方法に則って作ったとしても、思わぬ要因で種が入ることもある。そこで、アメリカでは【種なしスイカ】の基準が設けられている

“Seedless watermelons” are watermelons which have 10 or less mature seeds, not to include pips/caplets, on the face of the melon which has been cut into four equal sections (one lengthwise cut and one crosswise cut)37);種なしスイカとは、果実を縦と横に均等に切った4つの断面に小さいものや殻を除く成熟した種子が10粒以下であるスイカのこと。

日本ではこのような基準はないが、不活化花粉やユウガオなどの利用では、虫による受粉や、風によって運ばれた花粉の受粉なども起きることがある。また、3倍体の種なしスイカも1024分の1の確率で種子ができてしまう(実際には果実中に数粒入るようだ)。柔らかくて気にもならない小さなしいな(・・・)もあれば、大きいしいな(・・・)や中身(胚)は無いが茶色や硬いしいな(・・・)もできる。どこまで許容できるかは分からないが、種皮は雌側の胚珠の部分であるから、ゲノム編集などの技術で胚珠が形成されないようなものを作るしかない。と、勝手に思うのだが。まあ、タネをかじったら、当たり!だね。と思えるくらいのゆとり(・・・)がほしいものだ。

あとがき

夏と言えばスイカであった。今もそのはずだ。人類はスイカとともにあった。スイカは命の水であった。この水を飲み、身体を洗い、果肉と種を食べ、生活を営んできたのである。NHK放送の『人間は何を食べてきたか』―スイカ砂漠の民の水瓶(みずがめ)―(1994)は衝撃であった。

アイキャッチ画像

日本の古い書物を見ていると、まったく奇妙?なスイカの絵が描かれている。

寺島良安順編「倭漢三才圖會(和漢三才図会)」巻第九十 蓏果(らか)類.p. 28. 1712.西瓜は別名寒瓜、須以久波とも書かれている。これはスイカにみえない。まず、スイカの特徴である茎のつる状や巻きひげはみられる。しかし、葉についてみると、スイカの葉は単葉で切れこみのある掌状裂葉であるが、この絵では葉柄から小葉がでて5出掌状複葉となっている。また葉身の特徴の欠刻(葉の切れ込み)はみられない(注:欠刻のない葉をもつスイカもある)。『農業全書』を手本にしたのか。この葉の特徴から植物学的にはスイカではない。また、スイカの果実といえば縞模様注)が特徴であるが、江戸時代には縞皮のスイカの記録がないとされるので、間違ってはいない。だが、この絵の果実の上部には、スイカにはほとんどみられないひだ(・・)があるようにみえる。成形圖説(1804-)にも果梗部のへこみ、ひだらしいものがみられるので、このようなスイカがあるのか。さらに、球形ではなく扁平である。これもめずらしい。このような形もあるにはあるが、何をみて描いたのか。カボチャのような果実だが。瓜類?いや他の種でも思いあたるものは浮かばない。

宮崎安貞「農業全書巻三」菜之類.(瓜之類)第十三.西瓜.p. 31-32. 1697.

これまたおもしろいスイカである。つる性であることは分かる。しかし、これも掌状複葉だ。1枚の葉の切れ込みが深いのではない。黄瓜、冬瓜、南瓜など瓜之類に描かれている葉をみるといずれもほぼ同じであるので、考えにくいがこのように見えていたのかもしれない(但し、(ひさご)は単葉となっている)。巻きひげは書かれていないが、正しく葉のつけ根から実が着いている。果実は果梗部が平らに近く、やや扁平な球形で縞はない。トウガンでは似たような果実もあるが、スイカではめずらしい。葉の特性以外はスイカである。

注)黒皮のスイカ(例:でんすけ)や淡い緑皮(例:ゴジラのたまご)などのように、縞が目立たないスイカもあるが、よくみると縞あるいは縞が網目となった模様がある。

引用・参考文献

1)木原 均.小麦の合成 – 木原均 随想集.講談社.1979.1a)1.作物の起源.種子のない西瓜(追記一、追記二).pp. 60-61.1b)同.pp. 52-53.

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13)濱 健夫.植物形態学.コロナ社.1984.13a)第4編 花と実.第22章 果実と種子.1.果実の構造.pp. 283-285.

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18)Biology. 2nd ed. Neil. A. Cambell. Figure 22. 12. Sympatric speciation by polyploidy in plants. p. 471. The Benjamin/Cummings Publishing Company. 1990.

19)A Dictionary of Biology. 8e. Oxford University Press. 2018. 19a)polyploid. p. 518、19b)genome. p. 275、

20)生物学辞典.第一版.岩波書店.1960.20a)ゲノム.p. 288、20b)ハンス― 半数.p. 810、20c)キホンスー 基本数.p. 212.

21)西山市三.細胞遺傳學研究法(増訂第五版).Ⅳ 染色體變異.pp223.養賢堂.1952.

  ・・・目次はⅣとなっているが、本文の上部(天)の柱がⅥと誤記

22)鵜飼保雄.植物育種学.第Ⅲ部 遺伝変異の創出.第9章 染色体変異と倍数性育種. 9. 2植物進化と倍数性.9. 2. 1 ゲノムと基本数.p. 228.東京大学出版会.2003.

23)松林元一.「種なし西瓜」の理論と實際.信濃書籍印刷株式会社.1950.23a)Ⅱ「種なし西瓜」の實際問題 (A)「種なし西瓜」はいかにして作りだされるか. pp. 16-22、23b)Ⅰ「種なし西瓜」の基礎理論.pp. 5-16.

・・・目次は(A)「種なし西瓜」はいかにして作られるか と記されている

・・・参考文献の益田三(誤)→ 益田三(正)

24)木原 均・西山市三.三倍體を利用する無種子西瓜の研究.pp. 93-103.生研時報.3. 1947

25)木原 均 監修・高橋隆平 編集.植物遺伝学Ⅲ.生理形質と量的形質.25a)渡辺好郎.1.性の遺伝と生殖.1・3 不稔性.1・3・3 雑種不稔性.a. 染色体的不稔性.1)奇数ゲノムの倍数体.pp. 72-73、25b)同.2)構造変異.pp. 73-76.

26)近藤典生.三倍性西瓜に就て.農業. 799.(2月號).pp. 19-25.大日本農會.1950.

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29)Sugiyama, K. , M. Morishita. Seedless watermelons produced via soft-X-irradiated pollen. 292-295. HortScience. 37(2). 2002.

30)果樹園芸学.湯田英二.Ⅵ. 開花と結実管理 4. 単為結果と単為生殖.(2)他動的単為結果.p. 135.朝倉書店.1978.

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34)杉山慶太・嘉見大助・室崇人.ユウガオ属花粉を利用したスイカの単為結実誘導における品種間差異.園学研.14(1).7-15.2015.

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36)西村米八・坂口 進.西瓜の相互転座に関する研究.第一報 旭大和の3転座系統について.22-29.

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Agricultural Marketing Service. Grades & Standers. Fruits. Title: Watermelon Grades and standards. https://www.ams.usda.gov/grades-standards/watermelon-grades-and-standards.

Detailed standards, Inspection Instructions & Other Resources: U.S. Grade Standards for Watermelons (pdf) https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/WatermelonStandards.pdf.

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