万物の霊鳥(2) -烏-カラスはクロウか

惟天地萬物父母 惟人萬物之靈 Homo crow

カラスには恨みつらみはないので揶揄するつもりはない。家畜ではないのでアニマルウェルフェアについて考えたこともない。頭に糞をかけられたこと以外は特にない。と思っていたら、思い出した。キャンプ場で朝目覚めてインスタントカレーの箱を開けたら袋がなかった。辺りを見回すと袋が落ちていて中身はカラッポだった。ボーゼンとしていたらカラスがうろうろしていた。やはり、うらみはあるか。ごみ箱を荒らすカラスにはクロウしている人も多いだろう。カラスは頭がいい、賢いというのは誰もが感じていることだろう。道路にいるカラスは車の速度と距離を計算してきわどいところで避ける。人の行動(振る舞い)と能力までも見透かされているように感ぜられる。

今のところ、人類が道具を使い始めたのは約300万年以上前でアウストラロピテクス・アフリカヌスが最初であろうと手の骨の構造から推測されている1)。ヒトと他の動物の違いをヒトは道具(デバイス)を使う、と思っている人がいるのではないだろうか。チンパンジー(Pan troglodytes)やカラス、ラッコ(Enhydra lutris)などをみていても、道具を使うのはヒトだけではないと誰もが思う。では、道具とは何か?というと、これは古くから議論されている問題である。

菊池郁夫氏は道具の定義を「人間の身体的能力、特に手足や歯などの機能の補助手段として使用する器物の総称」2)としている。これでいいのではと思うが、僭越素人ながら考えてみた。「自らの身体以外の何らかの物を利用して加工された物」としてはどうだろう。モノ(石など)そのものを直接の道具として利用せずに、別の自然物等を用いてそのモノを加工(削る、曲げるなど)して新たな道具にする(創作)ことがポイントである。歯、くちばしとか指などの自らの身体を道具(加工)に用いるのではなく、木、石などを使って目的とする物を作製するのはヒト以外できないのでは?

しかしながら、カレドニアガラス(Corvus moneduloides)が筒の中の餌を引っかけて取りだすために、くちばしや粘着テープ・・・・・を使って針金を折り曲げてフック状にした加工針金を作る3)。これは拙者の道具の定義に当てはまるのだろうか?きわどいところではあるが、当てはまる。カラスは材料を別のモノを利用して道具を創作できるのだ。ルイス・リーキー(Louis Seymour Bazett Leakey)はチンパンジーが道具を使っていることを聞いて「人間を定義し直すか、道具を再定義するか、さもなければチンパンジーが人間ということを受け入れなければならない3)と驚きと困惑で絶句した。チンパンジー以上の衝撃であるが、ヒトとカラスとの違いについて道具を用いるという定義では区別できないのだ。鳥あたま・・・・・とか、烏合の衆・・・・などという言葉をつくってヒトの足元にも及ばないと思っていた動物だ。確かに、ニワトリを飼っていた経験からすると何とも言えないが。しかし、鳥と人の違いを見出して一生懸命区別する必要があるのだろうか。

人間は言葉を話せる、文字を使用できる、これらは情報の手段で、動物、昆虫では普通のことで、何によって伝達しているかというだけである。過去から将来の計画を立て、時間的に先の場面にいる自分を思い浮かべる能力は人間だけがもつと考えられていたが、カラス類は将来について予想を立て計画できることがいろいろな実験から示されている4)。また、動物の種類によって餌の隠し方を変える行動は、他者が何を考えているか想像し考慮できる能力(認知特性)という霊長類のみに知られていた<心の理論>を有している可能性が指摘されている4)。ヒトに特徴長的なもの、直立二足歩行、上手投げ(overhand)、言葉、文字、数学の能力など上げればきりがないが、どんぐりの背比べである。絵や音楽など芸術的能力については今後の調査に期待する。

人新生(アントロポセン)という言葉が数年前から流行りだした。地質学的に1950年代頃から人間の活動によって起こされた汚染物質(放射線物質等)、人工物質、二酸化炭素の増加や気候変動による地質への影響、生態系に与えた影響などにより、地球の地質の変化を表す新しい年代(時代)を現在の完新世と区別するために人新生を提案している5)。一言でいうと、人間が地球に加えた変化を示す地層年代である。人新生地層のゴールデンスパイクと認定された候補地として世界中から9つの選ばれており、日本の別府湾もその一つである6)。*ゴールデンスパイクとは、地質時代を区切る地層境界を最も示すことができる地点(国際標準模式層断面及び地点:GSSP(Global Boundary Stratotype Section and Point))に打ち込まれる金の杭のことである。

現在地球上には340億羽の鶏(Gallus gallus domesticus)がいるらしい。およそ5000年前にアジアのセキショクヤケイ(Gallus gallus)から家畜化されてきた。しかし、卵を目的とすることから肉を食用とするのは最近の出来事のようだ。1945年以後品種改良が盛んとなり、生育速度と肉好きのよい大型化した鶏を生み出した7)。これにより、消費が伸びて飼育されるニワトリが爆発的に増えた。ヘレン・ピルチャーは未来の地質学者は何億羽ともなる大量の骨の化石が全世界から出土し、その骨の形態・組成、遺伝子の急激な変化が完新世とは異なる時代の特徴を示すことから、ヒト新生(anthropocene)ではなく、ニワトリ新生(ガリセン:gallicene)と呼ぶであろうと述べている7) 。残念ながら知能が高く飼育しにくそうなカラス類はゴールデンスパイクとしての指標とはなりそうにない。

ヒゲオマキザル(Sapajus libidinosus.ブラジル)が石を打ち付けて剥片石器を作っているというニュース8)があった。これには驚いた。もはや、人類は何をもってホモなのか定義がぐらついてしまう。ところが、石を岩に打ち付けて、割れた石をなめたり、石英の粉末を得ていることが目的らしい。石の掛けた鋭い縁を利用して切ることには使っていないらしい。安心した。また、オーストラリアに火を利用する鳥がいる(猛禽類:トビ、フェナキトビ、チャイロハヤブサ)という報道もあったが、火を起こすことができるという話ではないのでこれも安心。鳥たちにホモの称号を与えるには2足で歩くことが必要である。!!2本足で歩いているではないか! 

考古学者でも鳥類学者でもありません。勝手な想像による暇つぶしのささやきです。枠を壊して無謀なことを考えてみる。閉塞的な世界を抜け出そう! ↫↫↫ おきな ↬↬↬

引用文献・参考図書

1) MATTHEW M. SKINNER , NICHOLAS B. STEPHENS, ZEWDI J. TSEGAI, ALEXANDRA C. FOOTE, N. HUYNH NGUYEN, THOMAS GROSS, DIETER H. PAHR, JEAN-JACQUES HUBLIN, AND TRACY L. KIVELL. Human-like hand use in Australopithecus africanus. Science. 347, 6220. 395-399. 2015.

2) 菊池郁夫.世界考古学辞典 上.759.1979.平凡社

3) 道具意を使うカラスの物語著.杉田昭栄 監訳.須部宗生 翻訳.道具意を使うカラスの物語.緑書房

4) ジョン・マーズラフ、トニー・エンジェル 著.東郷えりか 訳.世界一賢い鳥、カラスの科学.河出書房新社

5) Jan Zalasiewicz et al, The Anthropocene: Comparing Its Meaning in Geology (Chronostratigraphy) with Conceptual Approaches Arising in Other Disciplines, 2021. Earth’s Future

6) McKenzie Prillaman. Geologists seek to define the anthropocen. 613. 14-15. 2023. Nature

7) ヘレン・ピルチャー.LIFE CHENGING.ヒトが生命進化を加速する.的場知之 訳.化学同人

8) Hélène Roche. Stones that could cause ripples. 34–35. 2016. Nature

   井原恭雄・梅崎昌裕・米田穣 編.人間の本質にせまる科学.自然人類学の挑戦.東京大学出版会

   Corey T. Callaghan, Shinichi Nakagawa, and William K. Cornwell. Global abundance estimates for 9,700 bird species. 118(21). 2021. PNAS

世界一賢い鳥、カラスの科学【中古】


コメント

タイトルとURLをコピーしました